第6話 ~ 海を渡るハヌマーン ~


6.ラーマ・ヤーナの物語
 今日は、昨日予告しておきました、「ラーマの名」への信仰によって、広大な「海」を一跳びで渡ってしまった話です。
 まずは、最初に譬え話の訳文から見ておきましょう。

バガヴァン・シュリー・ラーマチャンドラは、ランカ(スリランカ・セイロン)へ攻め入るために、海に橋を架けて渡らなければならなかった。しかし、忠実な猿のしもべであるハヌマーンは、ラーマへの揺るぎない信仰によって、一跳びで海を渡ってしまった。しもべは信仰によって主人以上のことを成し遂げたのである。

要するに、しもべが、信仰によって無限の力を発揮できたという話なんですが、なんかピンときませんね。これだけだと、何が何だかわからないですね。実は、インドの人たちは、背景にある事情を知っているから、このような短い話でも、すとんと腑に落ちる話になるんですね。

いったいこの話にはどんな背景があるのか、それを見ておきましょう。

最初に出てきた、ラーマチャンドラは、神の化身で、ラーマともよばれています。
インドでは有名な二つの叙事詩があり、一つが親族間の王位をめぐる巨大な戦争と、人生の複雑な運命がテーマとなっている「マハー・バーラタ」。それから、個人の「正しい生き方(ダルマ)」と純愛がテーマとなっている「ラーマ・ヤ-ナ」です。ここでのお話は、ラーマ・ヤーナの物語です。

『ラーマーヤナ』 は、古代インドの最高峰の英雄叙事詩で、一言で言うと「あまりに正しすぎる完璧な王子が、愛する妻シータを奪われ、すべてを懸けて悪魔の王に立ち向かう壮大な愛と正義の冒険譚」です。
【第1章:完璧な王子の追放劇】主人公のラーマ王子(ヴィシュヌ神の化身)は、容姿端麗、文武両道、誰からも愛される完璧な人間でした。しかし、王位継承をめぐる宮廷の陰謀(側室の嫉妬)に巻き込まれてしまいます。普通なら怒って反乱を起こすところですが、ラーマは「父の約束を守るため」と、文句一つ言わずに王位を捨て、最愛の妻シータと忠実な弟ラクシュマナを連れて、14年間もの過酷な森の流浪の旅に出ます。
【第2章:魔王ラヴァナの罠とシータ誘拐】森での厳しい暮らしの中でも、ラーマたちは気高く生きていました。しかしある日、世界を恐怖に陥れていた最強の悪魔の王ラーヴァナが、美しきシータに目をつけます。ラーヴァナは狡猾な罠(黄金の鹿)を使ってラーマと弟をシータから引き離し、自分の飛行戦車に乗せて、海の向こうの要塞島「ランカ(スリランカ)」へとシータを連れ去ってしまったのです。
【第3章:猿の軍勢との同盟と、ハヌマーンの登場】絶望の中、最愛の妻を探して南へと旅を続けるラーマは、道中で強力な猿の王国の軍勢と出会い、固い同盟を結びます。その猿の軍勢の中で、誰よりも圧倒的な忠誠心と強さを持っていたのが、風の神の子である将軍ハヌマーンでした。
ついに一行はインドの南端、つまり広大な海の前にたどり着きます。「シータは本当にこの海の向こうにいるのか?」それを確かめるために、まず命がけの単独偵察に名乗り出たのがハヌマーンだったのです。

ここで、最初の訳で示した、譬え話になるのです。
バガヴァン・シュリー・ラーマチャンドラは、ランカ(セイロン)に渡る前に海を渡らなければならなかった。しかし、忠実な猿のしもべであるハヌマーンは、ラーマへの揺るぎない信仰によって、一跳びで海を渡った。ここで、しもべは信仰によって主人以上のことを成し遂げた、と。

 現在、インドとスリランカの間は海に隔てられていて、とても海をいっぺんに飛ぶなんて想像できませんが、実は、インドとスリランカの間には、約48kmにわたって連なる浅瀬が存在します。現地ではサンスクリット語で「ラーマ・セートゥ(セートゥ=橋)」と呼ばれ、15世紀のサイクロンで崩壊するまでは、実際に歩いて渡れる陸橋だったという記録があります。(※西欧の地図では、最初の人類アダムが楽園を追われて歩いたという伝説から「アダムスブリッジ」とも表記されます)古代の人々は、この実在した険しい道を舞台にして、「理屈と努力で橋を架けて進む道」と、「揺るぎない信仰で一跳びに超える道」の2つを、私たちの心の在り方として譬えたのです。

「物語の最大のクライマックス(決戦)へ向かうための超重要シーン」になるんですね。
「流浪の果てにたどり着いた世界の果ての海」であり、妻を奪われたラーマ王子の絶望を終わらせるため、海を渡る必要があったのです。だから、唯一の希望のジャンプになるのです。

では、なぜ主人は橋を架け、しもべは跳んだのでしょうか。
後半の決戦では、ラーマは「大軍勢を率いて島へ攻め入る」必要があるため、数万匹の猿が通れるリアルな橋(道路)を架ける過酷な大工事が必要でした。しかし、ハヌマーンは「愛する主人のために、まずは自分が安否を確かめる!」という一心だったため、エゴも恐れも消え去り、神の力そのものとなって海を飛び越えてしまったというわけです。

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