【コラム】カンチェンジュンガの光を重ねて
このサイトのフロント・ページの背景画を飾るのは、ニコライ・レーリッヒ作『Mount of Five Treasures (Two Worlds) 1933』、そのご紹介です。

ニコライ・レーリッヒ 『Mount of Five Treasures (Two Worlds) 1933』
カンチェンジュンガを描いた名作とサブタイトルの二つの世界の意味 をさぐっていきます。
ロシアの画家であり精神の探求者でもあったニコラス・レーリッヒ(ニコライ・リョーリフ)が1933年に制作した名作『Mount of Five Treasures (Two Worlds) 』(邦題:五宝山、あるいは5つの宝の山)。
キャンバスにテンペラで描かれたこの作品(47×79cm)は、彼の「聖なる山々」シリーズを代表する象徴主義美術の傑作であり、現在はニューヨークのニコラス・レーリッヒ美術館に所蔵されています。
深く穏やかな青空を背景に、繊細な青と白の色調で表現された雪山が劇的に立ち上がる。険しく影に覆われた暗い前景から、超越的な光を浴びて輝く峰々へのコントラストは、鑑賞者を自然の神秘的な美しさと崇高な力へと誘う。彼がこの絵の副題に冠した「二つの世界(Two Worlds)」という言葉は、カンチェンジュンガという霊峰を通して、私たちが生きる地上世界と、目に見えぬ神聖な世界が一つに融合する聖域であることを示しているようです。
そこには、東洋思想やチベット仏教の伝説に深く傾倒したレーリッヒならではの、3つの深遠な意味があります。
1. 物質界と神聖な世界の境界線(天と地)
画面の手前に描かれた、暗く険しい影の領域は、私たちが肉体を持って生きる日常の「物質的な地球の世界」を象徴している。対して、奥にそびえ立ち、青や白の光を放つカンチェンジュンガの山頂は、最高の知恵や神性が宿る「高次元の神聖な世界」である。レーリッヒにとってヒマラヤの山々は、地上にいながらにして天上の神聖な領域へとアクセスできる、二つの世界を繋ぐ門(ゲートウェイ)そのものでした。
2. 人間の肉体と「魂の旅」
峻険な風景のなかに溶け込むように、レーリッヒは時に瞑想する修道士や小さな探求者の姿を好んで描いた。それは、過酷な地上(物質界)に生きる人間が、瞑想や芸術、美の探求を通じて、宇宙の真理(霊的世界)へと向かっていく「魂の旅」を表現しています。
3. 古代の智慧と新時代への移行
チベット語で「五つの雪の宝庫」を意味するカンチェンジュンガは、古代の聖なる知識が眠る場所とされてきた。レーリッヒはここに、西洋の「物質主義・機械文明」という古い世界から、東洋の智慧によってもたらされる「精神的な光のコミュニティ」という、新旧二つの精神的世界観の対比と、新時代への移行を暗示させているようです。
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