17.三口のパン屑(ロティ)
足の裏に刻まれたのは、ヒマラヤの岩肌。
割れたガラスのように尖り、
赤黒い血が、乾いた土を染めていた。
手にあるのは杖と、水瓶。
何日、食べていないのだろうか。
飢えは内なる炎となり、肉体は限界を叫ぶ。
かつてのプライドは、とうに塵と化していた。
物乞いとして、貧しい村の軒先に立つ。
差し出されたのは、泥にまみれ、干からびた、
たった三口のパン屑(ロティ)。
犬さえも見向きもしない、小さなかけら。
手は震えた。
その時、師の声がして、笑顔が脳裏に浮かんだ。
「世界を見る目が、まだ曇っているな」
泥を払い、冷え切ったそのかけらを、口へと運ぶ。
その瞬間――肉体のすべてが、光り輝く悦びに震えた。
それはただの乾いたパンではなかった。
生かすために宇宙からもたらされた、
至高の甘露(アムリタ)の味。
これだ。このためにこそ、
私は裸足で歩いているのだ。
ご馳走には目もくれず、
この乾いた三口のパン屑に、
無限の神の愛を見た。
肉体の飢えは消え、魂は満たされた。
足の傷の痛みも消え、遊行の道へと、
再び軽やかに歩みを進めた。
【アムリタ(甘露)とは】
インド神話のクライマックス「乳海攪拌(にゅうかいかくはん)」に登場する、不老不死をもたらす聖なる飲み物。神々と悪魔が世界の海を千年もかき混ぜ、あらゆる苦難の末にようやく手に入れた至宝とされています。
この物語は「心の葛藤」の比喩でもあります。外の世界を求めるのではなく、善悪の葛藤を乗り越え、瞑想によって自らの「内なる真我(アートマン)」に目覚めたとき、溢れ出る至福の智慧や心の平穏こそが、真のアムリタ(甘露)というのです。


コメント