3. 山が呼んでいた
霧の朝、夜の名残を抱いた冷たい霧が、私の頬にそっと触れた。
その冷たさは、眠っていた心を静かに目覚めさせる。
山腹を流れる白い息は、まるで大地そのものが呼吸しているようで、
私はその呼吸に合わせて、胸の奥がゆっくりと広がっていくのを感じた。
霧の向こう、カンチェンジュンガの峰がわずかに姿を現す。
白い光が雲間からこぼれ、
その一筋の輝きが、私の内側に小さな炎を灯した。
温かい眼差しで、厳しくもあり、美しくもあるその姿は、
私にとって初めて出会う“師”のように思えた。
茶畑の葉は露に濡れ、
村人たちの祈りの声が、朝の空気に溶けていく。
遠くから、トイ・トレインの汽笛が微かに響き、
その音は、静寂を破るのではなく、
むしろ静寂の深さを教えてくれる。
私はまだ名もない若い修行者だった。
しかし、この土地には、私よりもはるかに古い祈りが満ちていた。
岩に刻まれた行者の囁き、
滝の音に溶け込んだマントラ、
川の流れに宿る透明な力。
鳥のさえずりも、虫の声も、
ときおり森を横切る虎やヒョウの気配さえも、
すべてが“修行の一部”として私を迎え入れた。
私は思った。
「ここは、山と人と神がひとつに溶け合う場所だ」
この地を訪れたのは偶然ではない。
山が私を呼んでいたのだと、
その朝、私は静かに感じた。


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