7.霧、修行者の呼吸
霧が濃くなるにつれ、街の音は遠ざかっていった。
茶畑での会話も、坂道の車輪の軋みも、すべてが静寂の膜に吸い込まれていく。
その中で、ひとりの修行者の呼吸を聞いていた。
彼は古い石段の上に座り、背筋をまっすぐに伸ばしていた。
胸の動きはほとんど見えない。
ただ、霧が彼の周囲でゆっくりと脈打ち、まるで呼吸そのものが霧を動かしているようだった。
「吸う息は山の内側へ、吐く息は世界の外側へ。」
その言葉が、霧の中から微かに聞こえた。
思わず息を止めた。
その瞬間、霧が顔に触れ、冷たさの奥に温かい脈動を感じた。
まるで山が肺の中に入り込んでくるようだった。
修行者は目を閉じたまま、静かに微笑んでいた。
周囲の霧は、呼吸のたびに形を変え、
ときに龍のようにうねり、ときに光の粒となって消えていった。
その姿を見ながら、
「呼吸とは、分離したものを溶かす行為なのだ」
霧と人、山と空気、内と外——それらはすべて、呼吸の中で一つになる。
その日、初めて知った。
霧の中で呼吸をすることそのものが、光と祈りであった。
それは、無音の讃歌でもあった。


コメント